エレミアスのイエスの譬話 [書籍紹介・リスト]
ヨアヒム・エレミアスの『イエスの譬話』の各版についての整理。
「C.H.ドッドと共に、イエスのたとえの終末論的な性格を強調したが、イエスにおいては実現した終末論ではなくて、むしろ「実現しつつある終末論」が問題になっていることを明らかにした。」
今井誠二「エレミアス、ヨアヒム」の項、『聖書学用語辞典』日本基督教団出版局、2008年。
Joachim Jeremias, 1900.9.20-1979.9.6。
(2019年は没後40年。2020年は生誕120年。)
なお、『聖書学用語辞典』(日本基督教団出版局、2008年初版)の「エレミアス、ヨアヒム」の項(今井誠二)では、綴りがJoahimになっている。
1.学術版
ドイツ語で、"Die Gleichnisse Jesu," 1947初版、1965第7版。
1947年初版は118頁。1952年第2版は174頁と大きく改訂された。1954年第3版は僅かな修正のみ。1956年第4版はさらに「頁ごとに手が加えられ、特に釈義的注の拡大に重点がおかれて」(善野碩之助訳『イエスの譬え』、「あとがき」p.263)、208頁。その後さらに、増補改訂された1962年第6版は242頁。1965年第7版は第6版を校訂したもの。
この英訳は、ドイツ語1954年第3版からS.H. Hooke訳で、"The Parables of Jesus," 1954初版, 1972第2版。
2.ドイツ語普及版
ドイツ語学術版第7版から「純粋に専門的な言語資料に関する注や引用文献などの脚注を短縮または省略した」(善野碩之助訳『イエスの譬え』の「あとがき」p.263)普及版が、学術版と同タイトル(というところがややこしい)で、"Die Gleichnisse Jesu," 1965.
1972年に改定版が出ている。誤植の訂正と、「十人の処女の譬え」の解釈についてだけ、若干の変更を加えたとのこと。
3.英語普及版
S.H. Hooke訳、"Rediscovering the Parables," 1966.
普及版の英訳は、原著のドイツ語普及版と異なり、学術版とは別のタイトルである。
この英語普及版(1966年)では、ドイツ語普及版の方では1972年の版になって改訂される内容がすでに反映されているとのこと。
4.普及版の邦訳
邦訳は普及版のみで、学術版の邦訳はないが、「本文には全く変わりがない」(善野碩之助訳『イエスの譬え』、「あとがき」p.263)とのこと。
①善野碩之助訳、『イエスの譬え』(現代神学叢書41)、新教出版社、1969。
6+272+14頁、2005年からオンデマンドで3000円+税。
ドイツ語普及版の1966年第2版からの邦訳。ただし、ところどころ学術版から注を補足したとのこと。というわけで、注が全く付けられていないわけではない。
②南條俊二訳、『イエスのたとえ話の再発見』、新教出版社、2018。
298頁、3000円+税。
英語普及版の第5刷1993年を底本とした翻訳。
役者はカトリック信徒。
この南條訳は孫訳であるものの、善野訳以降の改訂が反映されるらしいし、善野訳が難解なドイツ語からの難解な邦訳であったので英訳を元により分かりやすく訳したようだが、善野訳はそれほど難解な日本語ではない(どちらかというとある程度専門的な知識は必要)ので、善野訳を持っていれば、わざわざ買う必要はなさそう。
ジュピターと賛美歌 [音楽]
ジュピターと言えばすっかり平原綾香になってしまっているが、賛美歌としてのジュピターについて。また、ホルスト作曲の賛美歌など。
1.ホルスト『惑星』
グスターヴ・ホルスト(Gustav Theodore von Holst, 1874.9.21-1934.5.25)は、イギリスの作曲家。
組曲『惑星』(The Planets)(作品32)(1914-1916)の第4曲「木星――快楽をもたらす者」(Jupiter, the Bringer of Jollity)の中間部の旋律は、様々な歌詞が付けられて歌われていることで有名。
ホルスト『惑星』はもともと、占星術から着想を得て作られた。
2.「祖国よ、我は汝に誓う」
Cecil Spring-Riceによる"I Vow to Thee, My Country"(祖国よ、我は汝に誓う)(1918年)が歌詞として付けられ、ホルスト自身によって歌詞に合うように編曲された(1921年)。これがイギリスの愛国歌の一つとしてよく歌われるようになった。
この歌が讃美歌集"Songs of Praise"(1925年)に収録されて以来、この旋律には"Thaxted"という tune name が付けられている。これは、ホルストが暮らしたことのある町の名前にちなんでいる。
この讃美歌は、チャールズとダイアナの結婚式(1981年)やダイアナの葬儀(1997年)、マーガレット・サッチャーの葬儀(2013年)でも歌われた。
3.讃美歌として
イギリスでは"I Vow to Thee, My Country"の歌詞でも讃美歌集に収録されているようだが、より讃美歌らしい(?)歌詞が様々に作られている。
その中でも、Michael A. Perryによる"O God beyond all praising"(1982年)がよく好まれている。この讃美歌は、イギリス国教会の中のどちらかというとローチャーチの傾向にあるジュビラーテ・グループJubilate Groupと呼ばれる人たちによるジュビラーテ・ヒムズJubilate Hymnsから刊行された讃美歌集"Hymns for Today’s Church" (1982年)に収録されて広まった。
日本語は、『教会福音讃美歌』(2013年)の245番「御名をほめたたえる歌声より」(訳は中山信児)。
4.有名な作品
- 本田美奈子.「ジュピター」(YouTubeで検索)
- 平原綾香「Jupiter」(YouTubeで検索)
- 冨田勲『惑星』(YouTubeで検索)
- リック・ウェイクマンのピアノソロアルバム『Piano Portraits』(2017年)の14曲目 "I Vow to Thee, My Country"
- おまけで、木星ではなくて火星だが、
エマーソン・レイク・アンド・パウエル『エマーソン・レイク・アンド・パウエル』の中の「火星―戦争をもたらすもの」(YouTubeで検索)
5.ホルスト作曲の賛美歌
ホルストの作曲で讃美歌になっているものとして、クリスマスの讃美歌である「木枯らしの風」がある。
Tune nameはCRANHAM、歌詞はChristina Georgina Rossetti, "In the bleak midwinter"。
日本語では、
- 『讃美歌』(1954年版)468「こがらしのかぜ」。
- 『新生讃美歌』(2003年)181「凍てつく風の真冬の日」。
- 『日本聖公会聖歌集』(2006年)100「こがらしさむく」。
- 小坂忠のアルバム「クリスマスキャロル」の12曲目「木枯らしの風」は、こうえいかによる訳詞。
日本ではあまり歌われない感じだが、良い曲だ。
聖書の植物事典・図鑑 [書籍紹介・リスト]
聖書に出て来る植物の事典や図鑑の紹介。
1.何よりも
廣部千恵子(横山匡:写真)、『新聖書植物図鑑』、教文館、1999年、166頁、B5判、上製、4500円+税。
- 写真はすべてカラー。
- 聖書に出て来る植物を網羅。
- 新共同訳聖書での訳語で見出し。
- 和名、学名、ヘブライ語やギリシア語表記も明記。必要に応じて英語名も。
- 20回に渡る現地調査をもとに解説。
- 野の花、茨とあざみ、樹木、水辺の植物、畑の産物、香料と野草、砂漠の植物の7つに分類して配列。
- それゆえ「事典」ではなく「図鑑」だが、日本語索引、外国語索引、聖句索引と、索引も充実。
- 最低限、これだけでも、教会の図書室に入れておく。
※以前、清泉女子大学のサイト内に廣部千恵子のホームページがあって、聖書の植物その他の情報が豊富にあったのだが、大学を退官されたため、なくなってしまったのは残念。
2.副文献として
H.&A.モルデンケ(奥本裕昭編訳)、『聖書の植物事典』、八坂書房、2014年、260頁、A5判、上製、2800円+税。
- 原著は、Harold N. Moldenke & Alma L. Moldenke, "Plants of the Bible," 1952.
- 原著が取り上げている230種の内、同定が確実なものなどを採用した全81項目だが、一つの項目の中で関連する植物も扱っている。
- 各項目の説明文で、原著では研究者によって異なる見解も紹介されていたりするらしいが、翻訳では省略。
- 巻頭に、編訳者による「聖書植物の研究」として、聖書の成り立ち、聖地の概要、聖書植物研究小史が置かれている(pp.25-36)。
- 引用聖句は新改訳。
- 索引は和名索引のみ。
- 最初は、『聖書の植物』として植物と文化双書の一つとして1981年に出された(1991年に新装版)。今回、巻頭にカラー口絵(pp.9-24)を付し、項目に挙げている81種の写真を掲載、本文中の図版なども新しくされた。植物の科名も新分類体系に従って変更された。
3.読み物的なもの
中島路可、『聖書の植物物語』、ミルトス、2000年、253頁、B6判、1600円+税。
- 著者(なかしま・るか)は、天然物有機化学を専門とする理学博士。聖書に登場する植物を五十音順で紹介。「アーモンド」から始まる全54項目には「クリスマス・ツリー」、「ナルドの香油」「没薬」も含む。植物索引、聖書索引あり。
伊藤宏一、『聖書の植物散歩』、キリスト新聞社、2017年、4+211頁、A5判、1200円+税。
- いとう・ひろし。日本国内で探して自分で撮影したカラー写真がほぼすべてに添えられている(「ナルド」だけはイラスト)。それゆえ、プロの写真ではないが、どこの植物園で撮影したか文章中に記されている。
- 言及される聖書箇所を丹念に挙げ、ギリシア神話や江戸時代の『本草綱目啓蒙』などでの記述を紹介している。
- 47項目。
堀内昭、『聖書の植物よもやま話』、教文館、2019年、A5判、268+口絵6頁、1800円+税。
- 聖書に出てくる 45種類の植物を、化学の視点から紹介(著者は化学を専門とする学者)。
- 『聖書のかがく散歩』(聖公会出版、2012年)の中で取り上げた植物16種に、23種を追加。これらを「実と花の木の話」、「生活に欠かせない植物の話」、「スパイスとハーブ、香料の話」の3つに分けて、様々な話題と共に紹介。
4.西南学院大学
西南学院大学聖書植物園書籍・出版委員会編、『聖書植物園図鑑――聖書で出会った植物たちと、出会う。』、丸善プラネット、2017、14+119頁、1200円+税。
- 西南学院大学に「聖書植物園」がある。これは、1999年11月に開学50周年記念事業として、9種類の植物で開園された。
- この本は、西南学院大学聖書植物園に植えられている(キャンパス内のあちこちに植えられているらしい)100種の聖書関連の植物を、1ページに一つずつフルカラーで紹介している。写真もパレスチナの地でのものではなく、大学キャンパス内で撮られたもの。口語訳と新共同訳での訳語や同定の違いが考慮され、その植物が登場する聖句とその「聖句解説」がついているのがすばらしい。「入手と栽培方法」もある。
- ここに挙げた本の中で最もハンディなサイズ(四六変型、ほぼB6判)。それは、この図鑑を携行してキャンパスを巡ってもらうため。
- →出版社のページ
「我々が、梅の花に菅原道真を、桜に西行の姿を重ね合わせるように、彼の地の人々は、春先に花を咲かせるアーモンドから預言者エレミヤの人生に思いを馳せることでしょう。」
p.iii。
5.一昔前の文献
● 大槻虎男(善養寺康之、大槻虎男:写真)『聖書植物図鑑 カラー版』、教文館、1992年、26×22cm、126頁。
- 以前、教文館から出ていたものだが、上の廣部千恵子のものに取って代わった。
- 大槻虎男『聖書の植物』(教文館、1974年)の大幅な増補改訂版。カラー化と、ゾハリー『聖書の植物』(1982年)によって新たな知見が加わったことなどによる。
- 第1篇は総説で、聖書植物研究の歴史やパレスチナの気候・土地・植生の状況など。第2篇で個々の植物。「もっともはっきりしている11種の植物」、「ユリとバラ」、「イバラ」と続く。
- 巻末に、日本語索引、外国語索引、人名索引、聖句索引あり。
● ウイリアム・スミス編(藤本時男編訳)、『聖書植物大事典』、国書刊行会、2006年、526頁、A5判、9000円+税。
これは、1863年にイギリスで刊行されたSmith's Bible Dictionaryとして知られる"A Dictionary of the Bible"(3巻本、後に4巻本)から植物に関する項目を抜き出して翻訳したもの。原著は既にパブリックドメインになっている。
(2017.5.31初投稿)
(2017.11.5改訂)
(2019.9.4, 14改訂)