ルターの礼拝 [礼拝]
ルターの礼拝についての基本的な著作は、
「会衆の礼拝式について」(1523年)
「フォーミュラ・ミサ」(1523年)
「ドイツミサ」(1526年)
の三つ。
礼拝順序が示されているのは「フォーミュラ・ミサ」と「ドイツミサ」。しかしいずれも、いわゆる式文ではない。
1.Von ordenung gottis diensts ynn der gemeine
1523年の聖霊降臨日。ドイツ語で書かれた。
邦訳は、青山四郎訳「会衆の礼拝式について」(『ルター著作集第一集第五巻』p.269-)。
礼拝順序を示しているわけではないが、礼拝から不純物を取り除き、御言葉による礼拝の回復と、神の言葉が説教されることを訴えている。
2.Formula missae et communionis
1523年末。ラテン語で書かれた。
一般に「フォーミュラ・ミサ」と言われている。
邦訳は、青山四郎訳「ミサと聖餐の原則」(『ルター著作集第一集第五巻』p.281-)。あるいはこれをもとに鈴木浩、湯川郁子によって改訂されたものが『ルター著作選集』(教文館、2005)のpp.437-460。
特徴は、
- ①他の考え方をするのは自由であり、ルターはこれが強制されることを望んでいない。
- ②ラテン語であり伝統的な様式を踏襲しているのは、従来の礼拝に慣れ親しんだ人たちへの配慮であり、また、目新しいものにばかり飛びつく連中がいるため。
- ③伝統に沿いつつも、人間が犠牲を献げることにつながる要素を徹底して排除。具体的には、奉納と奉献文を否定して実体変化と犠牲奉献に関わる言葉や所作を取り除いた。かわりに制定語を重視。
- ④自国語による説教を勧め、自国語の讃美歌の必要を述べている。
3.Deutsche Messe und ordnung Gottisdiensts
1526年元旦。ドイツ語で書かれた。
一般に「ドイツ・ミサ」と言われている。
邦訳は、青山四郎訳「ドイツミサと礼拝の順序」(『ルター著作集 第一集第六巻』、聖文舎、1963)。
特徴は、
- ①自国語による礼拝。
(ただし、- a) 自国語による礼拝の実践はすでにカールシュタットらが行っていた。
- b) 賛美歌をドイツ語で会衆も歌うが、ドイツ語の讃美歌が十分に揃うまではラテン語も許容。
- c) 目的は信徒の信仰理解のためと、異教徒や未信者、若者・子ども、召し使いへの伝道・教育のため。)
- ②礼拝の順序も言語もそれ自体が絶対化されたり強制されてはならず、各人の自由であることを強調
(ただし、ころころ変えるのは民衆が混乱するのですべきでない。また、弊害があればすぐに変更すること。)。 - ③信徒の信仰理解、異教徒への伝道、子どもへの教育のために、教理問答を重視。
- ④急進的な改革をせず、時が来るのを待つ。祭服などは、廃れるか、廃止したいと思うようになるまでそのままにしておく。
- ⑤標準説教集(説教範例)の必要を提起。
ドイツミサは、フォーミュラ・ミサを廃止したり変更したりするものではない。必要に応じて用いる自由がある(『ルター著作集 第一集第六巻』P.421-422)。結果として、ドイツミサよりもフォーミュラ・ミサがドイツ語の形で定着し、また、宗教改革の広がりに伴って各国語で行われることになった(『キリスト教礼拝・礼拝学事典』p.437)。
文 献(順不同)
見たもの
- 前田貞一「ルター派の礼拝」、『キリスト教礼拝辞典』(日本基督教団出版局、1977年)pp.369-373。
- W.ナーゲル(松山與志雄訳)『キリスト教礼拝史』(教文館、1998年)のpp.158-169。
- J.F.ホワイト(越川弘英監訳)『プロテスタント教会の礼拝 その伝統と展開』(日本基督教団出版局、2005年)のpp.63-85。
- 『キリスト教礼拝・礼拝学事典』(日本基督教団出版局、2006年)の「礼拝の系譜」の項目の中の徳善義和「ルター派」、pp.436-438。「礼拝の歴史」の項目の中の出村彰「宗教改革時代」、pp.486-488。
- 徳善義和「ルターと讃美歌2 信仰改革は礼拝改革へ具体化」、『礼拝と音楽』158号、2013夏、pp.52-56。
見たけど役立たなかったもの
- 『ルターと宗教改革事典』(教文館、1995年)の「礼拝改革」の項目(徳善義和)。記述の分量が少なく、フォーミュラ・ミサやドイツミサの中身の話はない。
- 『礼拝と音楽』No.175、2017年秋号。特集「礼拝改革者ルター」。ルターの礼拝改革に取り組む具体的な話はないし、フォーミュラ・ミサやドイツミサについても上の文献を補うような知見はなかった。カトリック、フォーミュラ・ミサ、ドイツミサ、ミュンツァーのドイツ語ミサ、ブツァー、カルヴァンの礼拝式順を比較できる一覧表(p.18)があるのは便利かも。
見ていないもの
- V.ヴァイタ(岸千年訳)、『ルターの礼拝の神学』、聖文舎、1969年。
- ゴードン・W・レイスロップ(平岡仁子訳)、『21世紀の礼拝――文化との出会い』 、教文館、2014年、125頁、1500円+税。
- この本の元になったと思われる講演の、石居基夫による紹介記事
- 平岡仁子の記事(「礼拝式文の改訂:ルーテル教会の式文」『るうてる』2014年7月号)
補 足
前田貞一は『キリスト教礼拝辞典』(日本基督教団出版局、1977)の「ルター派の礼拝」の項目で、ルターの著作で礼拝順序に関わる基本的なものとして英語版ルター著作全集"Luther's Works"から、上記3つの他に、"A Christian Exhortation to the Livonians Concerning Public Worship and Concord"(1525)を挙げている。
これの原題は"Eyne Christliche vormanung von eusserlichem Gottis dienste vnde eyntracht, an die yn lieffland." WA18, 417-421. 現代ドイツ語では"Eine christliche Vermahnung von äußerlichem Gottesdienst und Eintracht an die in Livland."
しかし、これは当時のバルト海沿岸のリボニアの町ドルパートでの宗教改革を励ますために送られた手紙で、ルターの礼拝観は表れているだろうが、ドイツでの話ではないので、基礎的な文献ではこの著作については全く触れられていない。邦訳もなし。
2017-10-24 22:00