SSブログ

ヨハネ福音書の注解書 [書籍紹介・リスト]

ヨハネ福音書の
  ・全体にわたって
  ・原典にあたって詳細な
  ・説教に有用な
  ・日本語で書かれた
信頼できるものは、ないのか?


ヨハネ福音書研究のアプローチは多様であり、日本人研究者を例にして言えば(1)伝承史・編集史を用いた研究(土戸清、松永希久夫)、(2)哲学的・神学的なアプローチを用いたもの(伊吹雄)、(3)グノーシスとの関連で論じていく研究(大貫隆、小林稔)などがあります。
土戸清、『ヨハネ福音書のこころと思想2』(教文館、2002年)の「あとがき」、p.309。


NTD(松田伊作訳、1975年)、現代聖書注解(鈴木脩平訳、1992年)はあるが、原典の手触りがわかるようなタイプの注解書ではない。

コンパクト聖書注解EKKのヨハネは未刊。

ブルトマン(杉原助訳、大貫隆解説)『ヨハネの福音書』(日本基督教団出版局、2005年)は、18,000円(税別)もするし、わたしにとっては説教に有用とは言えない。

最初の部分に限れば、松永希久夫やカール・バルトもあるが。

高砂民宣『栄光のキリスト』.JPG受難物語に限れば、高砂民宣、『栄光のキリスト――ヨハネによる福音書の受難物語』(大森講座25)(新教出版社、2013年、1000円+税)も考察の役に立つ。




というわけで、日本語で現在のところは次のもののみ。
伊吹雄『ヨハネ福音書注解』P1110120.JPG伊吹雄、『ヨハネ福音書注解』(全三巻)、知泉書館、Ⅰ:2004、Ⅱ:2007、Ⅲ:2009。
288+428+512=1228頁。5000+6000+7600=18,600円(税別)もするが、ブルトマンを買うよりこっち。


イエス・キリストと切り離したしかたで先在のロゴスから語るような議論を避け、「歴史内にあるわれわれにとっては、受肉しないロゴスへのアクセスは、受肉したこのイエスを除いては他にない。」(p.18)とし、したがって、「「初めに」ついて語るには「初めに・・・あった」というふうに、現在の視点から語られる」とする(p.24)。現在の場所とは、「イエス・キリストの到来によって、ここに今開かれている霊の次元であり」(p.12)、すなわち、「この「・・・あった」ということは、現在からする霊におけるアナムネーシス(想起)というものに他ならない」(p.13)。

このようにヨハネ福音書そのものの全体から捉えていく方法や、緒論的な議論をまとまった形でしていないとかなど特徴は、佐々木啓による書評、『日本の神学』No.44、2005年

しかし、なじみのある歴史的批評学的なスタイルではないので、かなり取っつきにくいかも。



大きなものではないが信頼できる注解として、『新共同訳新約聖書注解Ⅰ マタイ~使徒言行録』の中のヨハネは松永希久夫と山岡健によるもの。

あとは日本人によるものでは、「説教者のための聖書講解 合本」のヨハネ(1991)「アレテイア 釈義と黙想 合本」のヨハネ(2004)だが、やはりいろんな人が書いているので玉石混淆だし、どうやらどちらも版切れ。

『説教黙想 アレテイア』でヨハネ福音書が連載されて合本が出るのを待ちたい。

また、日本基督教団出版局から刊行予定の日本人による書き下ろしの注解書シリーズNTJのヨハネ(伊東寿泰)に期待したい。

その他、土戸清が「目下執筆中の『ヨハネ福音書注解――試訳と解釈――』」と記している(『ヨハネ福音書のこころと思想1』教文館、2001年、p.295-296)。その後、この話は出てこないが、どうなったのか?


日本語のものが以上のような状況なので、英語のものに手を出してみると、原典に当たって詳細な議論をしていて、かつ、学問的議論に終始せず説教に有用なものは、

Anchor Bible(R.E.Brown, 1966,1970)は2巻合わせて1208頁。定評あるものだが、出版年的にはそろそろ古さを感じる。なお、この著者による『解説「ヨハネの福音書・ヨハネの手紙」』(湯浅俊治監訳、田中昇訳、教友社、2008年)は、簡潔すぎ(228頁、ヨハネ福音書の部分はpp.13-157)。

BECNT(Andreas J. Köstenberger, 2004)は20+700pp.(607頁以降、文献表とindex)とやや中型の注解書の趣きで、図書館でDarrell L. Bockのルカ(すごく分厚く、中身も濃い)の隣に並んでいるとさすがに見劣りしてしまう。

ICCは、J.F.McHughによる新しいものが2009年にまず1-4章が出た(ペーパーバック版は2014年)が、その続きはまだ出ていない。

NIGTCは、Richard Bauckhamによると予告されているようだが、未刊。

WBCは、G.R. Beasley-Murrayによるもので、1999年に第2版が出たが、1987年の初版からbibliographyなどがupdateされているだけで、注解部分は同一のようなので、初版があれば第2版はいらないが、全体的に他と比べて分量が十分でない感じがする。

と言うわけで、詳細でクリティカルなものとして信頼できるのは、やはり今だに、Anchor BibleのR.E.Brown。今後のICCとNIGTCの完成に期待する。


ちなみに、土戸清が絶賛しているのは、Sacra Paginaのシリーズの中のF.J.Moloneyによるもの(1998)。「先行するヨハネ福音書研究者の最近の業績の多くを自らの研究の対話の相手として叙述をすすめ、学的に公正な判断を随所に示している。信頼に値する注解書である。」
土戸清「わたしが推薦する注解書」(『説教黙想アレテイア特別増刊号 説教者のための聖書注解書ガイド』、日本基督教団出版局、2009、p.72)


土戸清『ヨハネ福音書のこころと思想』全7巻その土戸清がヨハネ福音書を講解した、『ヨハネ福音書のこころと思想』が全7巻で出ている(教文館、2001~2005年)。説教とは言え、著者のヨハネ福音書研究の成果が余すところなく語られているので、これが現時点で、日本語で読めるヨハネ福音書の全体にわたる最良の注解と言えるかも。

書評:
関川泰寛による書評、日本基督教学会、『日本の神学』No.45、2006年。
遠藤勝信(1~3巻)、小林稔(4~7巻)による書評、日本新約学会、『新約学研究』No.34、2006年。
(土戸清『使徒言行録 現代へのメッセージ』日本基督教団出版局、2009年のあとがき、p.394でこれらの書評に言及されているが、どういうわけか、号数と刊行年が全く間違っている。)


(2017.7.5加筆修正)


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。