シュミート『旧約聖書文学史入門』 [書籍紹介・リスト]
K.シュミート(山我哲雄訳)、『旧約聖書文学史入門』、教文館、2013年、429頁、4500円+税。
Konrad Schmid, "Literaturgeschichte des Alten Testaments: Eine Einführung," Wissenschaftliche Buchgesellschaft: Darmstadt, 2008.
■著者について
コンラート・シュミート(1965.10.23-)
■内容について
タイトルに「入門」とあるが、初心者向けでは全くなく、専門家向け。
牧師必携というほどのものでもない。が、著者問題とか資料とかの細かな議論をするような緒論ではなく、各書の神学をあーだこーだと議論しているわけでもなく、テキストそのものの特徴をきちんと押さえていくので、索引を利用して各文書に関する箇所を調べていけば、けっこう、おもしろい。
正典の順ではなく、また、各文書を一冊の書として扱うのでもなく、各文書を各時代の層に分解し、歴史の順に沿って、互いに影響を及ぼし合いながら、各時代に書き継がれ、絶えず成長発展していく過程を総合的にたどる。
特に、テキスト間の相互関係やそれによるテキストの発展に注目して叙述されている。
一つのテキストをある特定の時代に位置づけるとしても、口伝や文書の形での前史や、文学として成立した以降の後史があることを排除するものではない。ただ、例えばモーセ・出エジプト物語が最初に文学として成立したのは新アッシリア時代であったと想定できるので、この時代のところで述べられている。(「まえがき」p.8)
時代区分は、アッシリア以前、アッシリア時代、バビロニア時代、ペルシア時代・・・という、イスラエルを支配することで影響を与えた大国によって区分されている。
六つの時代に分け、それぞれに、第1章 歴史的諸背景、第2章 神学史的特徴づけ、第3章 伝承諸領域という三つの章を置く。すなわち、歴史的背景と神学史的な特徴を述べた後、その時代に形成されたと考えられる伝承について、物語的伝承とか預言者的伝承とか法的伝承といった種類ごとに記す。
たぶん原著でゲシュペルトになっている強調部分は、太字かつアンダーラインになっていて見やすい。
巻末に膨大な専門的文献表あり。ほとんどが英語、ドイツ語圏のもの。邦訳文献リストが1ページだけあり(p.414)。有用な聖書索引、人名索引あり。日本人では、浅野も関根も左近もないが、大住が挙げられている(p.165、398)。
■目 次
A 旧約聖書文学史の課題、歴史、諸問題
第1章 なぜ旧約聖書文学史なのか
第2章 古代イスラエルにおける言語、文字、書物、文書作成
第3章 進め方と叙述法
B アッシリア到来以前のシリア・パレスチナ小国家世界を枠組とした古代イスラエル文学の諸端緒(前10−8世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
C アッシリア時代の文学(前8-7世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
D バビロニア時代の文学(前6世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
E ペルシア時代の文学(前5-4世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
F プトレマイオス朝時代の文学(前3世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
G セレウコス朝時代の文学(前2世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
H 聖典化と正典形成
第1章 「聖典」と「正典」の区別
第2章 その歴史の枠内における旧約聖書文学の聖典化
Konrad Schmid, "Literaturgeschichte des Alten Testaments: Eine Einführung," Wissenschaftliche Buchgesellschaft: Darmstadt, 2008.
■著者について
コンラート・シュミート(1965.10.23-)
「ドイツ語圏にはSchmid, Schmidt, Schmittなど、さまざまなスペルの「シュミット」という苗字があり、その発音はドイツの標準語(ホーホドイッチュ)では区別なく「シュミット」であるが、・・・スイスでは「シュミート」に近い発音で呼ぶそうである。特に旧約学界では、「シュミット」という姓の研究者が多い・・・。そこで、本人の承諾を受けたうえで、日本語表記は「コンラート・シュミート」とした。」
「訳者あとがき」p.370。
■内容について
タイトルに「入門」とあるが、初心者向けでは全くなく、専門家向け。
牧師必携というほどのものでもない。が、著者問題とか資料とかの細かな議論をするような緒論ではなく、各書の神学をあーだこーだと議論しているわけでもなく、テキストそのものの特徴をきちんと押さえていくので、索引を利用して各文書に関する箇所を調べていけば、けっこう、おもしろい。
正典の順ではなく、また、各文書を一冊の書として扱うのでもなく、各文書を各時代の層に分解し、歴史の順に沿って、互いに影響を及ぼし合いながら、各時代に書き継がれ、絶えず成長発展していく過程を総合的にたどる。
特に、テキスト間の相互関係やそれによるテキストの発展に注目して叙述されている。
一つのテキストをある特定の時代に位置づけるとしても、口伝や文書の形での前史や、文学として成立した以降の後史があることを排除するものではない。ただ、例えばモーセ・出エジプト物語が最初に文学として成立したのは新アッシリア時代であったと想定できるので、この時代のところで述べられている。(「まえがき」p.8)
時代区分は、アッシリア以前、アッシリア時代、バビロニア時代、ペルシア時代・・・という、イスラエルを支配することで影響を与えた大国によって区分されている。
六つの時代に分け、それぞれに、第1章 歴史的諸背景、第2章 神学史的特徴づけ、第3章 伝承諸領域という三つの章を置く。すなわち、歴史的背景と神学史的な特徴を述べた後、その時代に形成されたと考えられる伝承について、物語的伝承とか預言者的伝承とか法的伝承といった種類ごとに記す。
たぶん原著でゲシュペルトになっている強調部分は、太字かつアンダーラインになっていて見やすい。
巻末に膨大な専門的文献表あり。ほとんどが英語、ドイツ語圏のもの。邦訳文献リストが1ページだけあり(p.414)。有用な聖書索引、人名索引あり。日本人では、浅野も関根も左近もないが、大住が挙げられている(p.165、398)。
■目 次
A 旧約聖書文学史の課題、歴史、諸問題
第1章 なぜ旧約聖書文学史なのか
- 第1節 課題設定
- 第2節 研究史
- 第3節 神学的位置づけ
- 第4節 古代イスラエルの文学の一端としての旧約聖書
- 第5節 「ヘブライ語聖書」と「旧約聖書」
- 第6節 旧約聖書の「原テキスト」の問題
- 第7節 旧約学内部における旧約聖書文学史の位置
- 第8節 歴史的再構成の基盤、諸条件、可能性、限界
- 第9節 旧約学の比較的最近の研究諸傾向と旧約聖書文学史に対するその帰結
第2章 古代イスラエルにおける言語、文字、書物、文書作成
- 第1節 言語と文字
- 第2節 文書作成の素材的諸局面
- 第3節 文書作成および受容の文学社会学的諸局面
- 第4節 著者たちと編集者たち
- 第5節 旧約聖書の文学の同時代の読者たち
- 第6節 様式史的展開の諸要素
第3章 進め方と叙述法
- 第1節 大国群の文化圧力と旧約聖書文学史の時代区分
- 第2節 歴史的文脈化
- 第3節 神学史的特徴づけ
- 第4節 伝承諸領域の様式史的、伝統史的、社会史的区分
- 第5節 旧約聖書のテキスト群や諸文書の間の「水平」と「垂直」の相互関係
- 第6節 聖書内在的な受容としての編集
- 第7節 伝承と記憶
B アッシリア到来以前のシリア・パレスチナ小国家世界を枠組とした古代イスラエル文学の諸端緒(前10−8世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的諸伝承と知恵的諸伝承
- (a)北王国の諸聖所の文学
- (b)エルサレムの神殿祭儀の文学
- (c)知恵的伝承
- 第2節 年代記的伝承と物語的伝承
- (a)北王国の諸伝承
- (b)エルサレムの宮廷文学
C アッシリア時代の文学(前8-7世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)詩編
- (b)比較的古い知恵文学
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)申命記主義的な『列王記』の諸端緒
- (b)士師物語群(士3-9章)
- (c)モーセ・出エジプト物語
- (d)アブラハム=ロト・ツィクルス
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)ホセア書、アモス書における預言者的伝承の諸端緒
- (b)最古のイザヤ伝承、およびそのヨシヤ時代の受容
- 第4節 法的諸伝承
- (a)契約の書
- (b)申命記
D バビロニア時代の文学(前6世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)反詩編としての『哀歌』
- (b)民の嘆き、および個人の詩編の集団化
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)ヒゼキヤ=イザヤ物語
- (b)サムエル記-列王記下23章に対する、列王記下24-25章による発展的加筆
- (c)出エジプト記2章-列王記下25章の大歴史書の成立
- (d)ヨセフ物語
- (e)創世記の族長物語
- (f)非祭司文書のシナイ伝承
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)エレミヤ伝承の諸端緒
- (b)エゼキエル伝承の諸端緒
- (c)第二イザヤ
- 第4節 法的諸伝承
- (a)十戒
- (b)申命記主義的申命記
E ペルシア時代の文学(前5-4世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)祭司文書
- (b)神政主義的詩編
- (c)ヨブ記
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)非祭司文書の原初史
- (b)ダニエル伝説群(ダニエル書*1-6章)
- (c)創世記-列王記下を範囲とする大歴史書の成立
- (d)エズラ記-ネヘミヤ記
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)ハガイ書/ゼカリヤ書
- (b)第二イザヤ、第三イザヤにおける発展的加筆
- (c)エレミヤ書、エゼキエル書における発展的加筆
- (d)「申命記主義的」な立ち帰り神学
- (e)古典的預言の聖書的な構築
- 第4節 法的諸伝承
- (a)神聖法典
- (b)民数記
- (c)トーラーの形成
F プトレマイオス朝時代の文学(前3世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 知恵的諸伝承
- (a)箴言1-9章
- (b)ヨブ記28章および32-37章
- (c)コヘレトの言葉
- (d)「メシア的詩編集」
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)歴代誌
- (b)バラム・ペリコーペの拡張
- (c)ダビデ伝承中のヘレニズム的要素
- (d)エステル記
- (e)トーラーのギリシア語訳
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)預言書における世界審判テキスト
- (b)「大イザヤ書」(イザ1-62章)の形成
- (c)第三イザヤにおける敬虔な者と邪悪な者
- (d)エレミヤ書におけるディアスポラからの帰還と王国の再建
- (e)第二ゼカリヤと第三ゼカリヤ
- (f)イザヤ書と12預言書の編集上の同調
- (g)ダニエル書2章と7章における世界諸帝国
G セレウコス朝時代の文学(前2世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)詩編の書の神政主義化と再終末論化
- (b)シラ書、ソロモンの知恵
- 第2節 預言者的諸伝承
- (a)「ネビーイーム」の形成
- (b)マカバイ時代のダニエル書
- (c)バルク書
- 第3節 物語的諸伝承
- (a)物語的文書における世界時間秩序
- (b)マカバイ記、トビト記、ユディト記、ヨベル書
H 聖典化と正典形成
第1章 「聖典」と「正典」の区別
- 第1節 ヨセフスと第四エズラ書14章
- 第2節 シラ書の序言、および「律法と預言者」
第2章 その歴史の枠内における旧約聖書文学の聖典化
- 第1節 聖書の叙述
- 第2節 宗教的テキスト-規範的テキスト-聖なる文書-正典(カノン)
- 第3節 旧約聖書の文学史と正典史
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