『旧約聖書を学ぶ人のために』 [書籍紹介・リスト]
並木浩一、荒井章三編、『旧約聖書を学ぶ人のために』、世界思想社、2012年、12+338+4頁、2300円+税。
聖書学的な旧約聖書学への入門というよりも、旧約思想への入り口の紹介という感じだが、入門者でなくても有益な示唆を得ることができる。それは、編者がテーマに沿って適切な執筆者に依頼したからであろう。「旧約聖書の中心的メッセージに焦点を絞り、その歴史的、文化史的、信仰史的な文脈を重視する叙述」を目指した(「はじめに」、p.ii)
以下、執筆者とタイトル。コメントは目次の詳細の主なものだったり、私なりのキーワードのメモだったり。
Ⅰ 旧約聖書へのアプローチ――その成立・展開と風土――
荒井章三「旧約聖書とは何か」
月本昭男「旧約聖書の世界」
Ⅱ 旧約聖書は歴史をどう描いているか
大住雄一「民の選びの歴史」
小友聡「試練と摂理」
関根清三「終わり・黙示・メシア――終末論の諸態と批判的展望――」
Ⅲ 旧約聖書は人間をどう見ているか
人と人との関わり
勝村弘也「男と女」、「親と子」
佐々木哲夫「友情・兄弟」、「隣人・外国人・敵」
人と神との関わり
並木浩一「罪の赦しに生きる人――原初史の人間像――」
並木浩一「神に問う人――神議論的問いを深めた人々――」
飯謙「神を賛美する人――「詩編」――」
Ⅳ 旧約聖書は現実をどう捉えているか
山我哲雄「自然と人間」
鈴木佳秀「契約と法」
大島力「預言者の現実批判」
鈴木佳秀「戦争と平和――聖戦――」
Ⅴ 旧約聖書研究史・文献紹介
山我哲雄「旧約聖書研究史・文献紹介」
聖書学的な旧約聖書学への入門というよりも、旧約思想への入り口の紹介という感じだが、入門者でなくても有益な示唆を得ることができる。それは、編者がテーマに沿って適切な執筆者に依頼したからであろう。「旧約聖書の中心的メッセージに焦点を絞り、その歴史的、文化史的、信仰史的な文脈を重視する叙述」を目指した(「はじめに」、p.ii)
以下、執筆者とタイトル。コメントは目次の詳細の主なものだったり、私なりのキーワードのメモだったり。
Ⅰ 旧約聖書へのアプローチ――その成立・展開と風土――
荒井章三「旧約聖書とは何か」
名称、成立と区分、翻訳、キリスト教と旧約聖書など
月本昭男「旧約聖書の世界」
自然風土、歴史風土、宗教的風土
Ⅱ 旧約聖書は歴史をどう描いているか
大住雄一「民の選びの歴史」
歴史の共通理解は教育によって育てられる(申命記6:20-25)、選びの歴史(申命記7章)、カノニカル(正典的)な歴史、礼拝で共有される歴史、申命記的歴史、六書説と四書説、選びの主への排他的忠誠を徹底させるのか、それとも、被造世界全体の神との関係の回復を目指すのか、二つの歴史思想
小友聡「試練と摂理」
イサク奉献の物語(創世記22章)、過酷な試練の中で服従と信仰によって摂理を知る、ヨセフ物語(創世記45章)
関根清三「終わり・黙示・メシア――終末論の諸態と批判的展望――」
この論で課題として残された問題については、『旧約聖書の思想 24の断章』(岩波書店、1998年、改訂新版が講談社学術文庫、2005年)の19~20章で、特にアモス書に即して展開しているとのこと。
Ⅲ 旧約聖書は人間をどう見ているか
人と人との関わり
勝村弘也「男と女」、「親と子」
サムソン(士師記13-16章)、雅歌、アブサロム、箴言
佐々木哲夫「友情・兄弟」、「隣人・外国人・敵」
ダビデとヨナタン、イサクとイシュマエル、エサウとヤコブ、ルツ記の慈しみ(ヘセド)と責任
人と神との関わり
並木浩一「罪の赦しに生きる人――原初史の人間像――」
アダムとエバ、カイン、ノア
並木浩一「神に問う人――神議論的問いを深めた人々――」
アブラハム(創世記18章)、エレミヤ、ヨブ
飯謙「神を賛美する人――「詩編」――」
嘆きの歌、信頼の歌、たたえの歌、表題と構造
Ⅳ 旧約聖書は現実をどう捉えているか
山我哲雄「自然と人間」
神の被造物としての人間と自然――<神>対<人間・自然>(神の超越性、創造と秩序など)、神の似姿としての人間――<神・人間>対<自然>(人間による自然の支配について)、自然の中に現れる神の力――<人間>対<神・自然>(ヨブ記など)
鈴木佳秀「契約と法」
律法とモーセ、十戒、契約の書、申命記における国家と法、神聖法典
大島力「預言者の現実批判」
預言者による王国批判と宗教批判
鈴木佳秀「戦争と平和――聖戦――」
聖戦、聖絶、シャローム
Ⅴ 旧約聖書研究史・文献紹介
山我哲雄「旧約聖書研究史・文献紹介」
2段組34ページに渡り、研究史・研究動向を紹介しつつ主要文献を紹介、注解書も紹介している。これだけでも牧師必携。
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最近の旧約聖書の学びの本 [書籍紹介・リスト]
前回、旧約の各書ごとの学びのために、ポイントや特徴などを整理する上で有用な本をリストアップした。
その中で比較的最近のものは、
であった。
その他の最近のもので、、旧約の各文書ごとになっておらず、あるいはすべての文書を網羅してなく、あるいは簡単すぎ、あるいは専門的過ぎて、今回の目的のためには特に見る必要ないもの:
[日本基督教団出版局]
[教文館]
→全目次を紹介した2015.10.14の記事
[キリスト新聞社]
[新教出版社]
[その他の出版社]
→読書メモの形で紹介した2016.2.21の記事
→目次と執筆者、主な内容を紹介した2015.10.29の記事
その中で比較的最近のものは、
・『新版 総説 旧約聖書』、日本基督教団出版局、2007年。
(内容は専門的なので、信徒向けではない。執筆者によってしょうもない部分もあるが、一応、牧師必携。)・浅見定雄、『改訂新版 旧約聖書に強くなる本』、日本基督教団出版局、2010。
(横書きで新共同訳対応になった改訂新版。信徒必携。)・『はじめて読む人のための聖書ガイド』、日本聖書協会、2011。
(旧約から新約まで66書それぞれについて、特徴、執筆目的、背景、構成を、一書につき2~3ページで解説。これも信徒におすすめ。)・C.ヴェスターマン(左近淑、大野恵正訳)、『聖書の基礎知識 旧約篇』、日本基督教団出版局、2013年。
(これも、邦訳初版は1984年だが、横組み、新共同訳対応の改訂版になった。牧師必携。信徒におすすめと言うほどではないかなあ。初版の縦組みしか知らないけど。)であった。
その他の最近のもので、、旧約の各文書ごとになっておらず、あるいはすべての文書を網羅してなく、あるいは簡単すぎ、あるいは専門的過ぎて、今回の目的のためには特に見る必要ないもの:
[日本基督教団出版局]
・福万広信、『聖書』、日本基督教団出版局、2013年。
キリスト教学校の中学生向け教科書・落合建仁、小室尚子、『聖書入門――主を畏れることは知恵の初め』日本基督教団出版局、2014年。
キリスト教学校の大学初年度の教科書[教文館]
・W.H.シュミット(木幡藤子訳)、『旧約聖書入門』(上、下)、教文館、上:1994年、下:2003年。
「入門」とあるが専門書。上下合わせて税別8000円。ドイツの神学校の教科書。・C.レヴィン(山我哲雄訳)、『旧約聖書――歴史・文学・宗教』、教文館、2004年。
専門的な内容を簡潔に記述したつもりのようだが、内容が凝縮されているためか、かえって初心者には分からない。索引なし。訳者による日本語文献が挙げられている点だけなんとか良心的だが。・W. H.シュミット、W.ティール、R.ハンハルト(大串肇訳)、『コンパクト旧約聖書入門』、教文館、2009年。
「入門」とあるが、一般向けではない。これからほんとに専門的に学ぼうとする人向け。索引がないのは致命的。文献表も原著のものを羅列しただけで見にくい。・K.シュミート(山我哲雄訳)、『旧約聖書文学史入門』、教文館、2013年。
これも「入門」とあるが専門書。索引は充実。慣れればけっこうおもしろいので、わたしは使っている。→全目次を紹介した2015.10.14の記事
[キリスト新聞社]
・越川弘英、『旧約聖書の学び』、キリスト新聞社、2014年。
キリスト教学校の大学初年度の教科書。・A.グリューン(中道基夫、萩原佳奈子訳)、『聖書入門』、キリスト新聞社、2013年。
学問的な視点ではなく、聖書への親しみを持つように、聖書の内容を紹介した感じ。惜しいのは、新約はほぼ各文書ごとなのに、旧約は、「すべての始まり」、「アブラハム」、「ヤコブ」、「ヨセフと兄弟」、「モーセ」、「約束の地」、「ダビデとソロモン」・・・といった感じ。ヨブ記~雅歌、三大預言書は文書ごとだが。1項目につき2~4頁ほどなので、ほんとに超入門という感じ。初心者におすすめ。・石黒則年、『旧約聖書あと一歩』、キリスト新聞社、2011年。
旧約聖書の読みどころを取り上げた信徒向けあるいは伝道用の軽い筆致のエッセー、1項目3~4頁の全50講。でも学問的な知識にも多少踏み込んだ解説がある。聖書の学びの会で使えるかも。[新教出版社]
・大野惠正、『旧約聖書入門 1 現代に語りかける原初の物語』、新教出版社、2013年。
全5巻の予定だがまだ1のみ。1は、聖書全体と旧約聖書の成立から原初史の部分についての全15講。2は、アブラハムから創世記の最後までの全23講で、2015.11.24発売予定。[その他の出版社]
・加藤隆、『旧約聖書の誕生』(ちくま学芸文庫 カ30-1)、筑摩書房、2011年。
最初は2008年の単行本。聖書について全く知識のない知識人向けの講義録という感じの語り口の読み物風の概説的入門書で、緒論的ではなく通論的。できる限り実際の聖書を読んで聖書に親しんでもらおうと、聖書の引用文も多い(新共同訳を元にしつつ、敬語表現などを除き、部分的に独自の訳語に変更したのかなという感じ)。巻末にモーセ五書のJEPD資料表あり。注や文献表はないのでやっぱり読み物。聖書箇所索引はあり。→読書メモの形で紹介した2016.2.21の記事
・並木浩一、荒井章三編、『旧約聖書を学ぶ人のために』、世界思想社、2012年。
聖書学の入門ではなく、旧約思想の紹介という感じだが、入門者でなくても有益な示唆を得ることができる。特に、山我哲雄による「旧約聖書研究史・文献紹介」は、感涙もので、研究史の要点とともに注解書の紹介もあり、牧師必携。→目次と執筆者、主な内容を紹介した2015.10.29の記事
・大頭眞一、『聖書は物語る――一年12回で聖書を読む本』、ヨベル、2013年。『聖書はさらに物語る』、2015年。
旧約から新約まで。それぞれ12講ずつ、要所要所を選んで。中高生向け教科書の大人版といった感じ。さらに間を埋めて、全部を聖書の順に並べ直して合本にしてくれたら、いいかも。『さらに物語る』のほうには、平野克己が推薦の言葉を書いている。旧約の各書の学び [書籍紹介・リスト]
旧約聖書を
を学ぶための本。
1.まず、小型の辞典で各書の名の項目を調べる。
2.次に、各書ごとの解説の付いた聖書を見る。
3.簡便な解説書を読む。次の二つは信徒も必携。
最低限、ここまではやる。
以上の7つの文献は、七つ道具というほどではないが、フランシスコ会訳聖書と岩波訳聖書は教会の図書に入れておくとして、その他は必携の書物として各自というか、一家に一冊ずつというか、揃えておくことを教会員にも勧めたい。
以下は、余力と時間しだい。
4.その他、余力に応じて、見ておくもの。
5.簡潔な注解書の緒論部分を読む。
6.より専門的な部分をきちんと押さえるには、必ずしも各書ごとではないが、目を通す基本は次のもの。
さらにその先は、個別の注解書の緒論部分や旧約文学史の専門書。
[追 記]
はじめ、4.のところにS.ヘルマン、W.クライバー(泉治典、山本尚子訳)『聖書ガイドブック――聖書全巻の成立と内容』(教文館、2000年)を一応挙げておき、「持っていないので不明だが」と記しておいた。その後、図書館で見てみたらたいしたことないので、削除した。『はじめて読む人のための聖書ガイド』があれば十分なのと、より初心者向けにはA.グリューン(中道基夫、萩原佳奈子訳)『聖書入門』(キリスト新聞社、2013年)の方がふさわしい。
・通読などで、聖書の順に読み進めていく上で、
・各書ごとに
・ポイントや特徴などを
・専門的にではないが、ある程度学問的に裏付けられた知識として、
・信徒と共に
を学ぶための本。
1.まず、小型の辞典で各書の名の項目を調べる。
・秋山憲兄監修、『新共同訳聖書辞典』、新教出版社、2001。
・木田献一、和田幹男監修、『小型版新共同訳聖書辞典』キリスト新聞社、1997。
・木田献一、山内眞監修、『新共同訳聖書事典』、日本基督教団出版局、2004。
2.次に、各書ごとの解説の付いた聖書を見る。
・フランシスコ会聖書研究所訳注『聖書』、サンパウロ、2011。
・旧約聖書翻訳委員会訳、『旧約聖書』(Ⅰ~Ⅳ)、岩波書店。
3.簡便な解説書を読む。次の二つは信徒も必携。
・浅見定雄、『改訂新版 旧約聖書に強くなる本』、日本基督教団出版局、2010。
(横書きで新共同訳対応になった改訂新版)・『はじめて読む人のための聖書ガイド』、日本聖書協会、2011。
(旧約から新約まで66書それぞれについて、特徴、執筆目的、背景、構成を、一書につき2~3ページで解説)最低限、ここまではやる。
以上の7つの文献は、七つ道具というほどではないが、フランシスコ会訳聖書と岩波訳聖書は教会の図書に入れておくとして、その他は必携の書物として各自というか、一家に一冊ずつというか、揃えておくことを教会員にも勧めたい。
以下は、余力と時間しだい。
4.その他、余力に応じて、見ておくもの。
・C.ヴェスターマン(左近淑、大野恵正訳)、『聖書の基礎知識 旧約篇』、日本基督教団出版局、2013年。
(これも、邦訳初版は1984年だが、横組み、新共同訳対応の改訂版になった。)・荒井献、石田友雄編、『旧約新約聖書大辞典』、教文館、1989。
5.簡潔な注解書の緒論部分を読む。
・『新共同訳旧約聖書略解』、日本基督教団出版局。
・『新共同訳旧約聖書注解』(1~3)、日本基督教団出版局。
6.より専門的な部分をきちんと押さえるには、必ずしも各書ごとではないが、目を通す基本は次のもの。
・『総説 旧約聖書』、日本基督教団出版局、1984年。
・『新版 総説 旧約聖書』、日本基督教団出版局、2007年。
さらにその先は、個別の注解書の緒論部分や旧約文学史の専門書。
[追 記]
はじめ、4.のところにS.ヘルマン、W.クライバー(泉治典、山本尚子訳)『聖書ガイドブック――聖書全巻の成立と内容』(教文館、2000年)を一応挙げておき、「持っていないので不明だが」と記しておいた。その後、図書館で見てみたらたいしたことないので、削除した。『はじめて読む人のための聖書ガイド』があれば十分なのと、より初心者向けにはA.グリューン(中道基夫、萩原佳奈子訳)『聖書入門』(キリスト新聞社、2013年)の方がふさわしい。
シュミート『旧約聖書文学史入門』 [書籍紹介・リスト]
K.シュミート(山我哲雄訳)、『旧約聖書文学史入門』、教文館、2013年、429頁、4500円+税。
Konrad Schmid, "Literaturgeschichte des Alten Testaments: Eine Einführung," Wissenschaftliche Buchgesellschaft: Darmstadt, 2008.
■著者について
コンラート・シュミート(1965.10.23-)
■内容について
タイトルに「入門」とあるが、初心者向けでは全くなく、専門家向け。
牧師必携というほどのものでもない。が、著者問題とか資料とかの細かな議論をするような緒論ではなく、各書の神学をあーだこーだと議論しているわけでもなく、テキストそのものの特徴をきちんと押さえていくので、索引を利用して各文書に関する箇所を調べていけば、けっこう、おもしろい。
正典の順ではなく、また、各文書を一冊の書として扱うのでもなく、各文書を各時代の層に分解し、歴史の順に沿って、互いに影響を及ぼし合いながら、各時代に書き継がれ、絶えず成長発展していく過程を総合的にたどる。
特に、テキスト間の相互関係やそれによるテキストの発展に注目して叙述されている。
一つのテキストをある特定の時代に位置づけるとしても、口伝や文書の形での前史や、文学として成立した以降の後史があることを排除するものではない。ただ、例えばモーセ・出エジプト物語が最初に文学として成立したのは新アッシリア時代であったと想定できるので、この時代のところで述べられている。(「まえがき」p.8)
時代区分は、アッシリア以前、アッシリア時代、バビロニア時代、ペルシア時代・・・という、イスラエルを支配することで影響を与えた大国によって区分されている。
六つの時代に分け、それぞれに、第1章 歴史的諸背景、第2章 神学史的特徴づけ、第3章 伝承諸領域という三つの章を置く。すなわち、歴史的背景と神学史的な特徴を述べた後、その時代に形成されたと考えられる伝承について、物語的伝承とか預言者的伝承とか法的伝承といった種類ごとに記す。
たぶん原著でゲシュペルトになっている強調部分は、太字かつアンダーラインになっていて見やすい。
巻末に膨大な専門的文献表あり。ほとんどが英語、ドイツ語圏のもの。邦訳文献リストが1ページだけあり(p.414)。有用な聖書索引、人名索引あり。日本人では、浅野も関根も左近もないが、大住が挙げられている(p.165、398)。
■目 次
A 旧約聖書文学史の課題、歴史、諸問題
第1章 なぜ旧約聖書文学史なのか
第2章 古代イスラエルにおける言語、文字、書物、文書作成
第3章 進め方と叙述法
B アッシリア到来以前のシリア・パレスチナ小国家世界を枠組とした古代イスラエル文学の諸端緒(前10−8世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
C アッシリア時代の文学(前8-7世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
D バビロニア時代の文学(前6世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
E ペルシア時代の文学(前5-4世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
F プトレマイオス朝時代の文学(前3世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
G セレウコス朝時代の文学(前2世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
H 聖典化と正典形成
第1章 「聖典」と「正典」の区別
第2章 その歴史の枠内における旧約聖書文学の聖典化
Konrad Schmid, "Literaturgeschichte des Alten Testaments: Eine Einführung," Wissenschaftliche Buchgesellschaft: Darmstadt, 2008.
■著者について
コンラート・シュミート(1965.10.23-)
「ドイツ語圏にはSchmid, Schmidt, Schmittなど、さまざまなスペルの「シュミット」という苗字があり、その発音はドイツの標準語(ホーホドイッチュ)では区別なく「シュミット」であるが、・・・スイスでは「シュミート」に近い発音で呼ぶそうである。特に旧約学界では、「シュミット」という姓の研究者が多い・・・。そこで、本人の承諾を受けたうえで、日本語表記は「コンラート・シュミート」とした。」
「訳者あとがき」p.370。
■内容について
タイトルに「入門」とあるが、初心者向けでは全くなく、専門家向け。
牧師必携というほどのものでもない。が、著者問題とか資料とかの細かな議論をするような緒論ではなく、各書の神学をあーだこーだと議論しているわけでもなく、テキストそのものの特徴をきちんと押さえていくので、索引を利用して各文書に関する箇所を調べていけば、けっこう、おもしろい。
正典の順ではなく、また、各文書を一冊の書として扱うのでもなく、各文書を各時代の層に分解し、歴史の順に沿って、互いに影響を及ぼし合いながら、各時代に書き継がれ、絶えず成長発展していく過程を総合的にたどる。
特に、テキスト間の相互関係やそれによるテキストの発展に注目して叙述されている。
一つのテキストをある特定の時代に位置づけるとしても、口伝や文書の形での前史や、文学として成立した以降の後史があることを排除するものではない。ただ、例えばモーセ・出エジプト物語が最初に文学として成立したのは新アッシリア時代であったと想定できるので、この時代のところで述べられている。(「まえがき」p.8)
時代区分は、アッシリア以前、アッシリア時代、バビロニア時代、ペルシア時代・・・という、イスラエルを支配することで影響を与えた大国によって区分されている。
六つの時代に分け、それぞれに、第1章 歴史的諸背景、第2章 神学史的特徴づけ、第3章 伝承諸領域という三つの章を置く。すなわち、歴史的背景と神学史的な特徴を述べた後、その時代に形成されたと考えられる伝承について、物語的伝承とか預言者的伝承とか法的伝承といった種類ごとに記す。
たぶん原著でゲシュペルトになっている強調部分は、太字かつアンダーラインになっていて見やすい。
巻末に膨大な専門的文献表あり。ほとんどが英語、ドイツ語圏のもの。邦訳文献リストが1ページだけあり(p.414)。有用な聖書索引、人名索引あり。日本人では、浅野も関根も左近もないが、大住が挙げられている(p.165、398)。
■目 次
A 旧約聖書文学史の課題、歴史、諸問題
第1章 なぜ旧約聖書文学史なのか
- 第1節 課題設定
- 第2節 研究史
- 第3節 神学的位置づけ
- 第4節 古代イスラエルの文学の一端としての旧約聖書
- 第5節 「ヘブライ語聖書」と「旧約聖書」
- 第6節 旧約聖書の「原テキスト」の問題
- 第7節 旧約学内部における旧約聖書文学史の位置
- 第8節 歴史的再構成の基盤、諸条件、可能性、限界
- 第9節 旧約学の比較的最近の研究諸傾向と旧約聖書文学史に対するその帰結
第2章 古代イスラエルにおける言語、文字、書物、文書作成
- 第1節 言語と文字
- 第2節 文書作成の素材的諸局面
- 第3節 文書作成および受容の文学社会学的諸局面
- 第4節 著者たちと編集者たち
- 第5節 旧約聖書の文学の同時代の読者たち
- 第6節 様式史的展開の諸要素
第3章 進め方と叙述法
- 第1節 大国群の文化圧力と旧約聖書文学史の時代区分
- 第2節 歴史的文脈化
- 第3節 神学史的特徴づけ
- 第4節 伝承諸領域の様式史的、伝統史的、社会史的区分
- 第5節 旧約聖書のテキスト群や諸文書の間の「水平」と「垂直」の相互関係
- 第6節 聖書内在的な受容としての編集
- 第7節 伝承と記憶
B アッシリア到来以前のシリア・パレスチナ小国家世界を枠組とした古代イスラエル文学の諸端緒(前10−8世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的諸伝承と知恵的諸伝承
- (a)北王国の諸聖所の文学
- (b)エルサレムの神殿祭儀の文学
- (c)知恵的伝承
- 第2節 年代記的伝承と物語的伝承
- (a)北王国の諸伝承
- (b)エルサレムの宮廷文学
C アッシリア時代の文学(前8-7世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)詩編
- (b)比較的古い知恵文学
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)申命記主義的な『列王記』の諸端緒
- (b)士師物語群(士3-9章)
- (c)モーセ・出エジプト物語
- (d)アブラハム=ロト・ツィクルス
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)ホセア書、アモス書における預言者的伝承の諸端緒
- (b)最古のイザヤ伝承、およびそのヨシヤ時代の受容
- 第4節 法的諸伝承
- (a)契約の書
- (b)申命記
D バビロニア時代の文学(前6世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)反詩編としての『哀歌』
- (b)民の嘆き、および個人の詩編の集団化
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)ヒゼキヤ=イザヤ物語
- (b)サムエル記-列王記下23章に対する、列王記下24-25章による発展的加筆
- (c)出エジプト記2章-列王記下25章の大歴史書の成立
- (d)ヨセフ物語
- (e)創世記の族長物語
- (f)非祭司文書のシナイ伝承
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)エレミヤ伝承の諸端緒
- (b)エゼキエル伝承の諸端緒
- (c)第二イザヤ
- 第4節 法的諸伝承
- (a)十戒
- (b)申命記主義的申命記
E ペルシア時代の文学(前5-4世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)祭司文書
- (b)神政主義的詩編
- (c)ヨブ記
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)非祭司文書の原初史
- (b)ダニエル伝説群(ダニエル書*1-6章)
- (c)創世記-列王記下を範囲とする大歴史書の成立
- (d)エズラ記-ネヘミヤ記
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)ハガイ書/ゼカリヤ書
- (b)第二イザヤ、第三イザヤにおける発展的加筆
- (c)エレミヤ書、エゼキエル書における発展的加筆
- (d)「申命記主義的」な立ち帰り神学
- (e)古典的預言の聖書的な構築
- 第4節 法的諸伝承
- (a)神聖法典
- (b)民数記
- (c)トーラーの形成
F プトレマイオス朝時代の文学(前3世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 知恵的諸伝承
- (a)箴言1-9章
- (b)ヨブ記28章および32-37章
- (c)コヘレトの言葉
- (d)「メシア的詩編集」
- 第2節 物語的諸伝承
- (a)歴代誌
- (b)バラム・ペリコーペの拡張
- (c)ダビデ伝承中のヘレニズム的要素
- (d)エステル記
- (e)トーラーのギリシア語訳
- 第3節 預言者的諸伝承
- (a)預言書における世界審判テキスト
- (b)「大イザヤ書」(イザ1-62章)の形成
- (c)第三イザヤにおける敬虔な者と邪悪な者
- (d)エレミヤ書におけるディアスポラからの帰還と王国の再建
- (e)第二ゼカリヤと第三ゼカリヤ
- (f)イザヤ書と12預言書の編集上の同調
- (g)ダニエル書2章と7章における世界諸帝国
G セレウコス朝時代の文学(前2世紀)
第1章 歴史的諸背景
第2章 神学史的特徴づけ
第3章 伝承諸領域
- 第1節 祭儀的、知恵的諸伝承
- (a)詩編の書の神政主義化と再終末論化
- (b)シラ書、ソロモンの知恵
- 第2節 預言者的諸伝承
- (a)「ネビーイーム」の形成
- (b)マカバイ時代のダニエル書
- (c)バルク書
- 第3節 物語的諸伝承
- (a)物語的文書における世界時間秩序
- (b)マカバイ記、トビト記、ユディト記、ヨベル書
H 聖典化と正典形成
第1章 「聖典」と「正典」の区別
- 第1節 ヨセフスと第四エズラ書14章
- 第2節 シラ書の序言、および「律法と預言者」
第2章 その歴史の枠内における旧約聖書文学の聖典化
- 第1節 聖書の叙述
- 第2節 宗教的テキスト-規範的テキスト-聖なる文書-正典(カノン)
- 第3節 旧約聖書の文学史と正典史
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