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どちり(い)な きりしたん [書籍紹介・リスト]

「どちり(い)な きりしたん」のまとめ

「どちりな きりしたん」あるいは「どちりいな きりしたん」は、4種類現存している。

参考文献
・海老沢有道『長崎版 どちりな きりしたん』岩波文庫(1950年)の解題
・海老澤有道『日本の聖書 聖書和訳の歴史』講談社学術文庫(1989年)のp.57
・門脇清、大柴恒、『門脇文庫 日本語聖書翻訳史』新教出版社(1983年)、pp.27-31
・『日本キリスト教歴史大事典』(教文館、1988年)の海老沢有道「『ドチリナ・キリシタン』」の項、海老沢有道「キリシタン版」の項、H.チースリク「天草コレジヨ」の項など。
その他

これらを総合すると、次のようになる。


1.1591年?国字本『どちりいなきりしたん』
刊行年・刊行地未詳(1591?加津佐?)の国字本、ヴァティカン図書館Barberini文庫所蔵

■刊行地、刊行者、刊行年について
当初は1592年、天草と推定されていた(岩波文庫の解題など)が、後に、1591年(天正19)加津佐と推定されるようになった。

刊行は、イエズス会のコレジヨによると推定される。(コレジヨは各地を転々としたが、1590年8月から91年5月まで加津佐にあった。)

Barberiniは、『日本キリスト教歴史大事典』では「バルベリーニ」と伸ばした表記。他は皆「バルベリニ」。

■影 印
小島幸枝、亀井孝解説『どちりいなきりしたん(バチカン本)』(勉誠社文庫55)、勉誠社、1979年。(ただし解説は『どちりなきりしたん(カサナテンセ本)』勉誠社文庫56の方に一括付載。
にある。
ほかに、
海老澤有道編『南欧所在吉利支丹版集録』、雄松堂書店、1978年。
にもあるようだ。

■翻 字
H.チースリク、土井忠生、大塚光信校注で、『日本思想体系25 キリシタン書・排耶書』(岩波書店、1970年)。
および
龜井孝、H.チースリク、小島幸枝『日本イエズス会版キリシタン要理――その翻案および翻訳の実態』 (岩波書店、1983年)
がある。


2.1592年ローマ字本
1592年天草:天草学院刊のローマ字本、東洋文庫所蔵

ヴァティカン図書館Barberini文庫所蔵の国字本(1591年?)とだいたい同一。

■刊行地、刊行者、刊行年について
刊行はイエズス会のコレジヨによる。(コレジヨは各地を転々としたが、1591年5月から97年秋まで天草河内裏にあった。)なお『日本の聖書』では「天草学林」と記されている。

■影 印
影印と翻字が、橋本進吉『文禄元年天草版吉利支丹教義の研究』(東洋文庫論叢、第九)、1928年にあるらしい。この本は、語学の立場から1592年ローマ字本を分析した「劃期の著述」(亀井他『日本イエズス会版キリシタン要理』岩波書店、1983年、p.179)とのこと。

<2014.10.8追記>
なんと、フルカラー原寸影印が出た。
公益財団法人東洋文庫監修、『重要文化財 ドチリーナ・キリシタン 天草版』(東洋文庫善本叢書2)、勉誠出版、2014年、160頁、14,000円+税。
解説は豊島正之。
<以上 追記>

■翻 字
海老澤有道編著『キリシタン教理書』(キリシタン文学双書、キリシタン研究第30輯)、教文館、1993年。


3.1600年ローマ字本
刊行地未詳(長崎?)、1600年刊行のローマ字本、水府明徳会所蔵

1591~92年の版(前期版)の改訂増補版。

章の番号の付け方が、前期版では第八を欠いているのに対し、後期1600年版では第十一が欠けている。そのため、章は第十二まであるが、両者とも実際は11章からなる。前期版で第八を欠く理由についての解明は、亀井孝、H.チースリク、小島幸枝、『日本イエズス会版キリシタン要理』(岩波書店、1983年)、p.42。

■刊行地、刊行者、刊行年について
刊行地は推定で長崎。『日本キリスト教歴史大事典』の「キリシタン版」の項(海老沢有道)によると、「印刷所の移転年度に重なったものなどは刊行地名が掲げられておらず、明確でないものもある」(p.415)。
イエズス会の印刷所は1598年から長崎コレジヨに移転しており、1600年から後藤宗印(霊名が登明(とめ))に印刷が委託された。
したがって刊行者は、長崎コレジヨか後藤宗印か。いずれにしてもイエズス会による。

■所 在
所在は、岩波文庫では徳川圀順氏と記されている。『日本の聖書』では水府明徳会。『歴史大事典』では水府明徳会とアポストリカ文庫(ヴァティカン)が記されている(p.417)。『日本イエズス会版 キリシタン要理』(岩波書店、1983、p.209)では「水戸彰考館」と記されている。上智大学ラウレスキリシタン文庫データベースでは「水府明徳会 彰考館・徳川美術館」と記されている。

■影 印
大阪毎日新聞社編『珍書大観 吉利支丹叢書』毎日新聞社、1928年。この中に『聖教要理』 というタイトルで収録されているらしい。
小島幸枝『どちりなきりしたん総索引』(風間書房、1971)もあるらしい。

■翻 字
海老澤有道編著『キリシタン教理書』(キリシタン文学双書、キリシタン研究第30輯)教文館、1993年。
ほかに、
小島幸枝『どちりなきりしたん総索引』(風間書房、1971)
にもあるらしい。


4.1600年国字本『どちりなきりしたん』
1600年長崎、後藤登明宗印による国字本、ローマのCasanatense文庫所蔵

前期版の改訂増補版で、水府明徳会所蔵の1600年ローマ字本とほぼ同一。

1600年ローマ字本が最後の11章となるはずのところを「第十二」としていたのを、この国字本では「第十一」と訂正し、ようやく章の番号付けが整った。

■刊行地、刊行者、刊行年について
イエズス会から委託された長崎の後藤登明宗印による印刷・刊行。

Casanatenseは、岩波文庫は「カサナテ」、『日本イエズス会版キリシタン要理』(岩波書店、1983年)も「カサナテ」、『日本語聖書翻訳史』が「カサナンゼ」、『日本の聖書』が「カサナテンゼ」、『日本キリスト教歴史大事典』が「カサナテンセ」。

■影 印
小島幸枝、亀井孝解説『どちりなきりしたん(カサナテンセ本)』(勉誠社文庫56)、勉誠社、1979年。
ほかに、
小島幸枝『どちりなきりしたん総索引』(風間書房、1971)
海老澤有道『南欧所在吉利支丹版集録』(雄松堂書店、1978)
などがあるらしい。

■翻 字
海老沢有道校注、1950年岩波文庫。
新村出、柊源一校註、『吉利支丹文学集2』(東洋文庫570)、平凡社、1993年。
(元は、『吉利支丹文学集 下』(日本古典全書)、朝日新聞社、1960年。)にもある。
他に、
小島幸枝『どちりなきりしたん総索引』、風間書房、1971年。
があるらしい。


◆ ◆ ◆


というわけで、

影印については、勉誠社文庫に二つの国字本の影印があるほか、海老澤有道『南欧所在吉利支丹版集録』(雄松堂書店、1978)にも、二つの国字本の影印が収録されているようだし、小島幸枝『どちりなきりしたん総索引』(風間書房、1971)には、1600年のローマ字本3と国字本4の両方の影印と校訂が収録されているようだが、どちらも近くの図書館にはないし、入手も困難そう。


影印を調べるほどではなく、翻字版でよいとして、入手や図書館閲覧がより容易なものとしては、

ローマ字本は、

海老澤有道編著『キリシタン教理書』(キリシタン文学双書、キリシタン研究第30輯)、教文館、1993年。
これに、1592年と1600年の両方のローマ字本が、国字本を参考にかな漢字交じりに校訂して収録されている。

国字本は、

『日本思想体系25 キリシタン書・排耶書』(岩波書店、1970年)に、1591年国字本がある。
1600年国字本は何と言っても海老沢有道校注の岩波文庫で。



平凡社、吉利支丹文学集(東洋文庫) [書籍紹介・リスト]

新村出、柊源一校注、『吉利支丹文学集1』(東洋文庫567)、平凡社、1993年、389頁。
元は、『吉利支丹文学集 上』(日本古典全書)、朝日新聞社、1957年。柊源一が訂正を加えたものが柊の遺族から提供され、これをもとに若干の補訂がなされたとのこと。


新村出、柊源一校注、『吉利支丹文学集2』(東洋文庫570)、平凡社、1993年、373頁。
元は、『吉利支丹文学集 下』(日本古典全書)、朝日新聞社、1960年。



■『吉利支丹文学集1』の内容
柊源一によるキリシタン文学全般にわたっての系統的な「解説」(pp.15-172)

「こんてむつすむん地」(天理図書館蔵、1610年、国字本)(いわゆるイミタチオ・クリスティ)の翻字、頭注付き(pp.173-384)。

「ぢ」だけ漢字で「地」とされていることについて、「ムンヂが『世の」といふ義なので、音と意味との通ずる『地』といふ字を当てたのであらうか」と推測されている。(p.161)



■『吉利支丹文学集2』の内容
柊源一による「どちりなきりしたん」の解説(pp.15-45)

「どちりなきりしたん」(ヴァチカンのBibliotheca Casanatense蔵、1600年国字本)の翻字、頭注付き(pp.47-187)。1600年ローマ字本を参考にして、句読点を付け、漢字や仮名の読み方を註に示している。

「イソポのハブラス」(大英博物館蔵、1593年ローマ字本)(いわゆるイソップ寓話集)の解説と国字への翻字(pp.189-343)。

平凡社からの復刻に当たって記された、米井力也による「解説」(pp.344-361)。

付録として、「どちりなきりしたん」の中でラテン語、ポルトガル語をそのまま仮名書きされている「本語」をローマ字本での表記と現代語訳と対照させた「本語対照表」と、ローマ字と仮名の対応を一覧にした「吉利支丹版ローマ字仮名対照表」がある(pp.362-373)。



新村出(しんむら・いずる)(1876.10.4-1967.8.17)は『広辞苑』の編纂で有名。名前の読みは「しんむら」であるが、『広辞苑』を引くことを「にいむらをひく」みたいに言われている。


柊源一(ひらぎ・げんいち)(「ひいらぎ」ではない)(1909.2.18-1981.9.30)カトリック信者。略歴と著作目録は、土田将雄「柊源一教授をしのんで」、『上智大学国文学論集』16、1983年1月、pp.1-4
他に、柊源一、『吉利支丹文学論集』、教文館、2009年、212頁。
がある。


平凡社の「東洋文庫」のシリーズは、アジア諸地域の代表的な古典、知られざる名作、貴重な日記・紀行文など、これまでに850点余りを刊行し、2013年に創刊50周年を迎えた。http://www.heibonsha.co.jp/series/toyo.html
『吉利支丹文学集』1、2は、2008年にワイド版も出た。

朝日新聞社の「日本古典全書」は、国立国会図書館をはじめ「日本古典全集」とデータ入力されていることがあるが、「日本古典全書」が正解。



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