SSブログ

BHK、BHS、BHQ [書籍紹介・リスト]

BHK(読み方はべーハーカー)はKittelの"Biblia Hebraica"のことなので、単にBHとも。キッテルの第何版という言い方もある。

Rudolf Kittel、BHK、第1版1906年。
キッテルは、新約におけるネストレのような批評的本文を作ることは意図せず、ヤコブ・べン・ハイームの『第二ラビ聖書』を本文とし、脚注に重要な異読や本文批評家による読み替えの提案などを記した。

Rudolf Kittel、BHK、第2版1913年。
若干の修正がなされた。(ただし、『旧約聖書の本文研究』p.72には「第二版は1909年」とある)

Paul Kahle、BHK、第3版1937年。
キッテルは1929年に死去。その後、Paul Kahle(パウル・カーレ、1875.1.21-1964.9.24。2014年はカーレ死去50年!)が中心的に加わって、本文にレニングラード写本を採用、脚注も著しく増補。

単にBHKと言った場合、この第3版を指す。

『第二ラビ聖書』はベン・アシェル本とベン・ナフタリ本の混合であり、しかも11~14世紀のものであった。これに対して、レニングラード写本は1008年(ないし1009年)のものでマソラ本文全体を含み欠損部分もほとんどなく、質の良い写本である。カーレはこれこそ純粋なベン・アシェル本だと考えて、本文をレニングラード写本に変更した。

(ただし、レニングラード写本もカーレが言うほど純粋なベン・アシェル本ではない。)

※口語訳聖書(旧約は1955年)の底本は、このキッテル第3版。

第3版の後も、若干の訂正と改善が加えられて版が重ねられていった。特に、1951年の版では、Albrecht AltとOtto Eissfeldtによってイザヤ書とハバクク書にクムラン文書の資料を扱う欄が新設された。これはBHKの第7版とされているが、主に異読資料欄を改訂していっただけだから「第7版」は言い過ぎとの批判あり(シェンカー)。


BHS4.JPGKarl Elliger、Wilhelm Rudolph、BHS、1977。
BHS(読み方は「べーハーエス」)は"Biblia Hebraica Stuttgartencia"の略。BHSは、BHK第3版の改訂の意味で第4版という。


BHK第3版では、マソラが無視されていたこと、校訂者の判断で詩型に組まれたところがあった、脚注で古代訳の証拠よりも校訂者の主観的判断の方が優先されていたり、古代訳の評価の不適切さなどがあった。

そこで、BHSでは、本文はメセグなども含めてレニングラード写本を忠実に再現、脚注では古代訳を慎重に評価、小マソラを校訂本の中に印刷、大マソラは別冊で刊行した。

BHSの版は、最初分冊で1967年から出され、1977に合本。その後、1984第2版、1987第3版、1990第4版、1997第5版。(私が持っている第5版ISBN:3-438-05219-9には、この版歴が記されていない。)


※新共同訳聖書(1987年)の底本とされたBHSは、初版あるいは第2版であろう。



BHQ、2004~。
Biblia Hebraica Quinta(ビブリア・ヘブライカ・クインタ)は、Kittel, "Biblia Hebraica, " 1906から数えて第5版(クインタは「第五の」という意味)。2004年から分冊で刊行が開始された。

本文はキッテル第三版以降と同様に、レニングラード写本。

いつこのプロジェクトが完了するかは、「神の導きに委ねられるべきことであり、この幸いなる出来事が近い将来に実現するようにという熱心なとりなしの祈りに託されるべきこと」だ(シェンカー、p.39)


もっとも、この言い方は、ヘブライ大学のHUB(The Hebrew University Bible) のプロジェクト(アレッポ写本を底本にして膨大な本文批評的脚注を伏したもの。1965年~)について、全体がいつ完成するかは「祈るしかない」と記されていることが元になっている。(『旧約新約聖書大事典』教文館の「本文」の項で紹介されている)


参考文献

●エルンスト・ヴュルトヴァイン(鍋谷堯爾、本間敏雄訳)、『旧約聖書の本文研究――『ビブリア・ヘブライカ』入門』、日本基督教団出版局、1997年。

●左近淑、『旧約聖書緒論講義』、教文館、1998年。
(特に112~113ページあたり)

●『国際聖書フォーラム2006講義録』(日本聖書協会、2006)の中のアドリアン・シェンカー、『ビブリア・ヘブライカ・クインタ――ヘブライ語聖書の新しい校訂本の主要な特徴』。
(BHQの簡潔な紹介として有用)

●『旧約新約聖書大事典』(教文館)の「本文」の項(よみがなが「ほんぶん」となっているが、「ほんもん」とすべき)

●BHSのforwordはゆっくり読んでいられない。

●総説旧約聖書の新版は持っていない。

●『旧約聖書を学ぶ人のために』世界思想社、2012年には、こういう話はまったく載っていない。


(2014/04/09加筆)

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。