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ホーリスティック [教会と社会]

福音派の中で、holisticは「包括的」と訳されることが普通のように感じる。

包括的福音などと言った場合、直接的な福音伝道と社会正義のための取り組みを統合的に捉えた宣教活動のもとになる福音理解を意味しているようだ。

特に東日本大震災後、被災地に入って活動する団体の中で、救援物資の提供や被災者に寄り添うことよりも、福音を信じることを直接的に訴える人たちがいた(いる)ことを問題として、言及されることが多くなったような印象がある。

参考:
クリスチャン新聞 復興支援サイト「被災地から問われる包括的福音――JEA宣教フォーラム仙台基調講演〈要約〉 (クリスチャン新聞2012年11月11日号)

関野祐二「震災後の日本における福音主義神学の教理的課題」、『福音主義神学』45号、2014年。




では、the holistic gospelという言い方はいつごろからプロテスタント教会の中で使われるようになったのだろうか。


福音派の1974年のローザンヌ世界伝道会議で、直接的な福音伝道(evangelism)と社会的な正義への取り組み(social action)とを統合的に捉えた宣教活動(mission)が明言された。

we affirm that evangelism and socio-political involvement are both part of our Christian duty.

The Lausanne Covenantの5. CHRISTIAN SOCIAL RESPONSIBILITYの中。



しかし、ローザンヌ誓約(Lausanne Covenant)の中で使われている語は、holisticではなくwholeである。

例えば、

World evangelization requires the whole Church to take the whole gospel to the whole world.

The Lausanne Covenantの6. THE CHURCH AND EVANGELISMの中。


同様に、1989年のマニラ宣言(The Manila Manifesto)でも、"holistic"は用いられてなく、"the whole gospel"という表現が"the whole church", "the whole world"と並んで、キーワードとして用いられている。


2010年のThe Cape Town Commitmentでは、holisticという語が使われている。




これらの日本語訳は、宇田進『福音主義キリスト教と福音派』、いのちのことば社、1993年の巻末にある。

が、どうも、訳語からは、ローザンヌ誓約とマニラ宣言における福音理解の特徴の一つと思われる"the whole gospel"の重要性が感じられない。

ローザンヌ誓約では、第5項でキリスト者の社会的責任を述べたすぐ次の項で、上に引用した文が出てくるが、次のように訳されている。

世界伝道は、全教会が、全世界に、福音の全体をもたらすことを要求する。


マニラ宣言の方は、"The Whole Gospel"という大きな見出しが「あまねく福音を伝えよ」になっている。

このころ(90年代前半)はまだ、こういった福音理解が日本の福音派の中では注目されていなかったということか。

ケープタウン決意表明の邦訳は、日本ローザンヌ委員会訳『ケープタウン決意表明』いのちのことば社、2012年。宇田進と内田和彦による解説あり。第三刷で三個所の訳文訂正。


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