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リンカーン(8)『三分間』4 [読書メモ]

ゲリー・ウィルズ『リンカーンの三分間』共同通信社ゲリー・ウィルズ(北沢栄訳)、『リンカーンの三分間――ゲティズバーグ演説の謎』、共同通信社、1995年、口絵4+376+索引5頁。

原著:Garry Wills, "Lincoln at Gettysburg : The Words That Remade America," Literary Research, Inc., 1992.
1993年ピュリツァー賞受賞作。

(続き)


「エピローグ――その他の演説」から

■ 戦争指導者としてのリンカーン

 「戦争指導者としてのリンカーンは、ほとんどの場合、非暴力主義を貫いた。彼は、暴力がいかに人々を本来の意図から逸脱させるかを知っていた。・・・戦争は長引けば長引くほど、いかなる理性的な目的をも逸脱していく。そうなると、高貴な熱望さえも、蛮行を助長しかねない。」(p.214、217)

 「戦争が勃発すると、熱く血がたぎり、そしてこぼれる。思考は従来の回路から混乱の中へと追いやられる。詐術が横行し、信頼関係が崩れ、そして疑心暗鬼を生ずる。人は皆、先に殺されないうちに隣人を殺そうとする衝動を抱く。そして復讐と仕返しが後に続く。」(p.216、SW 2.523)

 「戦時リーダーシップ史上、ユニークと言ってよいリンカーンの特徴は、彼が自己の絶対視や正当化、敵の中傷に耽ることを一切拒否したことである。」(p.220)

■ 第二次大統領就任演説

 リンカーンがゲティズバーグで奴隷制について言及しなかったのは、独立宣言国家としてのアメリカの理念の方が優先されるからであった。しかし、この戦争で奴隷制を無視することはできない。それは、第二次大統領就任演説によって補足されなければならない。(p.211)

 リンカーンは、第二次大統領就任演説で、ルカ18:7「この世はつまずきあるゆえ、わざわいなるかな。つまずきは必ずきたらん。されどつまずきをもたらす者にわざわいあれ」を引用し、アメリカの奴隷制は国家全体のつまずきであって、北部と南部の双方に戦争という災いが下されたのだとする。しかし、つまずきをもたらした者に災いを下されたのは、神がこのつまずきを取り除くことを欲したもうたということであり、ここに神の摂理を見る。
 北の祈りも南の祈りもどちらも聞き届けられなかったが、しかし今や、双方が共に「この戦争という強大なる天罰が速やかに過ぎ去らんこと」を切に祈らなければならない。
 ただそのために、「つまずき」をもたらしたことに対する代償を支払わなければならない。それは、「主の裁きは真実であってことごとく正しい」(詩編19:9、新共同訳では19:10)からである。(p.223-226)

 リンカーンは、「今、携わっている偉業を成し遂げよう」と呼びかける。それは、「われわれの前に残されている大いなる事業」(ゲティズバーグ演説)なのである。
 この声明が、ゲティズバーグ演説を補い、完全なものにする。ゲティズバーグ演説と肩を並べるに値するのは、この第二次大統領就任演説のみである。(p.228)


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