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リンカーン(7)『三分間』3 [読書メモ]

ゲリー・ウィルズ『リンカーンの三分間』共同通信社ゲリー・ウィルズ(北沢栄訳)、『リンカーンの三分間――ゲティズバーグ演説の謎』、共同通信社、1995年、口絵4+376+索引5頁。

原著:Garry Wills, "Lincoln at Gettysburg : The Words That Remade America," Literary Research, Inc., 1992.
1993年ピュリツァー賞受賞作。

(続き)


「第4章 思想の革命」から

 ゲティズバーグの戦いと同年になされた奴隷解放布告にリンカーンが言及しなかったのは、奴隷解放は単なる軍事的手段にすぎず、リンカーンは戦争を超え、「われわれの前に残されている大いなる事業」に目を向けていたからだ。それは、国家が自らを身ごもったヴィジョンにふさわしく邁進するためである。

 南北戦争まで、「合衆国」は一貫して複数名詞であった。"The United States are a free government." ところがゲティズバーグの戦い以降、「合衆国」は単数名詞として使われるようになった。"The United States is a free government."

 リンカーンが演説の終わりで「人民の、人民による、人民のための」政治と語ったとき、彼は単にセオドア・パーカーのような超絶主義者として「民衆政治」を称賛したのではなく、むしろウェブスターのように、アメリカは独立宣言の中で認められた偉大なる任務にとりかかる一つの人民であると述べたのである。この人民は、一七七六年に「身ごもり」、独立した存在として「打ち立て」られ、その誕生は「八十七年前」にさかのぼり、「この大陸」に位置づけられ、「自由の新たな誕生」を受けるべき存在なのであった。

(以上、p.170-171)


「第5章 文体の革命」から

 リンカーンは将軍たちとの連絡に電信を用い、電報文にふさわしい簡潔で明瞭な言葉を操った。ゲティズバーグ演説は、電文に似た、言葉の無駄をそぎ落とした文章になっている。特に、連結語を省略した連辞省略と呼ばれる表現で、andやbutに勢いをそがれることなく三つの文を響かせた。
 we are engaged...We are met...We have come...
 we can not dedicate...we can not consecrate...we can not hallow...
 that from these honored dead...that we here highly resolve...that this nation, under God...
 government of the people...by the people, for the people...

 この演説には、比喩的な言葉や形式ばった装飾が全く使われていない。代名詞や前文を受ける語を使うのではなく、既出の語を何度も繰り返すことで文章につながりを持たせている。

 リンカーンは科学の時代にふさわしく現代的な言葉を使い、産業社会にふさわしくスピーチの内部をうまく「つなぎ合わせ」、うまく作動(傍点)させたのだ。

(以上、p.203-210)


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