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リンカーン(6)『三分間』2 [読書メモ]

ゲリー・ウィルズ『リンカーンの三分間』共同通信社ゲリー・ウィルズ(北沢栄訳)、『リンカーンの三分間――ゲティズバーグ演説の謎』、共同通信社、1995年、口絵4+376+索引5頁。

原著:Garry Wills, "Lincoln at Gettysburg : The Words That Remade America," Literary Research, Inc., 1992.
1993年ピュリツァー賞受賞作。

(続き)


「第2章 ゲティズバーグと死の文化」から

 「霊園」(セミトリー)という言葉は、市街地の中にある教会付設の墓地ではなく、森や小川や泉などの田園風景のある町の境界の外に埋葬することで、死者を命や自然、再生と結びつけたロマン主義的な古代ギリシャの文化にちなんでいる。(p.64-66)

 「霊園は、十九世紀最高の境界値だった。命と死、時と永遠、過去と未来の境となる場所だった。」(p.78)

 リンカーンのゲティズバーグ演説における生と死の対照は、修辞学的であるのみならず、「霊園」のロマン主義的な性格から自ずと出てくるものでもあった。(p.82あたり)


「第3章 超絶主義的宣言」から

■ リンカーンと奴隷制

 ゲティズバーグ演説で語られた「大いなる事業」とは、奴隷解放ではなく民主政治の維持である。此の演説では奴隷制については全く触れられていない。(p.100)

 リンカーンは、奴隷制の問題について曖昧な発言をし、当時の人々と後世の研究家たちを悩ませている。リンカーンが一方で奴隷制反対を明白に打ち出し、他方でそれを曖昧にしているのは、聴衆の人種主義をくすぐろうとする巧みな業であった。(p.101-109)

 当時のアメリカ人は、独立宣言に畏敬の念を持っていたと同時に、奴隷制にも好感を抱いていた。リンカーンは、両方を同時に持つことは不可能だと論じた。独立宣言は、奴隷制を是認している憲法と異なり、時代を超越した極めて一般的な理念である人間の平等を謳って、自由な社会の原則を提示している。それに従えば、誰も人間を所有することはできないし、また、人間の上に立つ“国王”となるべきでもない。この点で奴隷制度は間違っている。(p.113-117)

 「奴隷制は憲法の中でうまく隠されている。それはまさに瘤や癌に侵された人がそれを隠すようなものだ。この人は、多量出血して死ぬことを恐れて、これらをすぐに切ろうとはしないかもしれない。にもかかわらず、時がたてば切らなくてはならないことは決まりきっている。」(p.115-116, SW 1.337-338)

■ アメリカの理念としての独立宣言

 独立宣言はアメリカの理念であり、この理想はすべての経験を超越する。アメリカの政治思想は、経験主義的ではなく超絶主義的である。そして、アメリカという国家が連邦を維持する唯一のよりどころは、独立宣言中に述べられているアメリカの理念である。アメリカがこの理念に生きて民主政治を維持発展させるならば、すべての人の生まれながらの平等の実現への道も開かれる。(p.120-127、140-141)


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