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ダビデとゴリアト(2) [聖書と釈義]

ダビデとゴリアトの物語についてのテキスト上の問題

1.サムエル記上17章の後、サムエル記上21:10、22:10ではダビデがゴリアトを倒したとされているが、サムエル記下21:19では、エルハナンがゴリアトを倒したことになっている。歴代誌上20:5では、エルハナンが倒したのはゴリアトの兄弟ラフミになっている。
 歴代誌の記述は全体的に、サムエル記と列王記を資料としつつ、独自の視点で書き換えられているので、サムエル記上17章と矛盾しないようにサムエル記下21:19を書き換えたと理解できる。すると、残るのは、ゴリアトを倒したのはダビデだという記述と、エルハナンだという記述の相違である。同じサムエル記の中でなぜ矛盾した記述があるのだろうか。
 よく世間で、聖書はそれを信奉する宗教によって都合よく書き換えられているという説が見受けられるが、ダビデとエルハナンの矛盾が残されている事実は、聖書はそのような恣意的な作業によって成立したのではなく、様々な伝承を経て歴史の経過の中で成立したことの一つの証左であり、表面的には矛盾を残しつつも、根底に何か意図があると見るべきであろう。
 この箇所は、エルハナンがゴリアトを倒したという言い伝えがあって、それが、ペリシテ人を打ち破ってイスラエルの国家を堅固にしたダビデの物語と結びついたと理解できる。

2.この物語は、16章でダビデが油を注がれたことを全く前提にしておらず、17:12以下であらためてダビデを紹介している。さらに、55~58節では、サウルとダビデは全く面識がない関係として記されている。これらの部分、すなわち、12~31節、55~18:5は、七十人訳聖書において欠けている。このことは、この物語について二つの伝承があって、それらが七十人訳聖書の成立以降に組み合わされたと考えることができる。
 ここでも、表面的には矛盾をはらみつつも二つの伝承が結合されるという仕方でサムエル記が編集されたことには、何か意味があると見るべきである。

3.ちなみに、KJVでは、サムエル記下21:19でもエルカナンを倒したのはゴリアトの兄弟ラフミということになっている。このような異読はBHS4版にもRahlfsの1巻本の七十人訳にも注記されていない。おそらく、歴代誌上の記述をサムエル記下に持ってくることで、サムエル記上17章との矛盾を解消しようとしたものであろう。KJVが最初かどうかはわからない(もしかしたら、KJVの以前にすでにそのような訳があったのかもしれない)が、KJVが広く影響を及ぼしたことは否めないだろう。
 そのため、邦語訳聖書では、文語訳聖書がKJVと同様にサムエル記下21:19でエルカナンが倒したのはゴリアトの兄弟ラフミとしている。口語訳ではゴリアテに直っているものの、新改訳はKJVや文語訳のままである(新改訳第3版でも同じ)。

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